台風21号が接近する中「選挙特番を見るナイト」と称して、急遽バーを開いた日曜日。誰も来ないかと思っていたが、ありがたいことに2人のお客さんに来ていただけた。喫茶の店長も残って、4人でワイワイ。売り上げは少なかったが、どなたか来ていただけでもやった甲斐はあった。片付けを終えて、店を出た23時半頃は比較的雨風も静かになり、ほっとして帰宅の途についたのだが、人生お手上げのギリギリな私、そうは問屋が卸さなかった。今日一日の終わりにも神は試練を与えたもうた。 帰宅の電車で眠ってしまい、下車する浅草を乗り越した…。 気づいたのは4つ先の駅、荒川を渡る手前にある京成線八広駅。台風でダイヤが乱れた終電車。折り返しの上り電車は無く、台風が接近しつつある真っ暗な駅前に放り出された。タクシー乗り場もみつからない。見知らぬ町の誰もいない真っ暗な交差点に立って、時折強く吹く台風の風に傘をあおられながら、遠くから近づいてくる車に赤い空車ランプがないかと目を凝らす。地元浅草と違って、絶望的なくらいに何も無い駅前。一緒に終電を降りた数人の人たちの姿も見えなくなって本当にひとりぼっちになってしまった。 ここはどこ?私は誰?とはまさにこんな時に使う言葉。すっかり目も覚めた。 200mくらい先に止まっているタクシーを一台見つけたが、そこまで歩いて行こうかと思った途端にそのタクシーはUターンして去って行き、無線タクシーを電話で呼ぶ気力も無く、立ち尽くす。小銭入れの中を見ると千円札が2枚と小銭。カードは入っていた。 歩いて帰れるかな…と、Googleマップを開く。 八広、京成曳舟、押上へ、まっすぐスカイツリーを目指せば帰れそうだ。上野・浅草間の2倍くらいか…歩けない距離ではない。荷物が無くて、晴れた日ならば歩いて帰ったかもしれない。けれど、台風接近中。背中のリュックが濡れないようにと持って来た75cmの大きな傘は風にあおられ壊れかけている。やはり歩きは現実的ではない。心もとない財布の中味を思い浮かべながら、雨粒に潤んだiphoneの画面を着ている赤いジャンパーで拭いて、腹を決めて交差点でじっと待った。 隣町バーを始めて、お客さんや店の人たちに励まされて抱いたギリギリの状況を脱することができるんじゃないかという淡い期待が冷たい雨に濡れ、暴風に吹きとばされて、闇の中に吸い込まれて行く。本...